京都地方裁判所 平成9年(ワ)2号 判決 1997年7月16日
京都府福知山市駅前町二番地
原告
髙橋百合
右訴訟代理人弁護士
近藤忠孝
東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
被告
国
右代表者法務大臣
松浦功
右指定代理人
関述之
同
西浦康文
同
戸根義道
同
谷口弘美
同
安達康夫
同
福田雅史
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
被告は、原告に対し、一二五七万九八〇〇円及びこれに対する平成八年一〇月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、福知山税務署長に対して提出された原告名義の所得税の修正申告書は、原告の意思に基づかないで提出されたものであり、これに基づく加算税等の賦課決定は無効であるとして、被告に対し、不当利得返還(あるいは過誤納金還付)請求として、原告が右賦課決定に基づいて納付した税額相当の金員(一二五七万九八〇〇円)及びこれに対する平成八年一〇月七日から完済まで民法所定年五分の割合による金員の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告(大正二年一〇年一七日生)は、肩書住所地に居住し、「北海道」という屋号で飲食業を営み、かねてから船越健二税理士(以下「船越税理士」という。)に税務申告業務を委任していた。
2 福知山税務署の職員は、平成八年五月二一日、原告方において、船越税理士の従業員である柳田事務員の立会いの下に税務調査を行い、翌二二日、再度、原告方を訪問し、原告方にあった帳簿・伝票類を持ち帰った(ただし、帳簿・伝票類の持ち帰りが二一日であるか、二二日であるかについては、原告と被告の主張に食い違いがある。)。
3 その後、柳田事務員は、平成八年六月一七日、福知山税務署長に対し、原告名義の平成三年分から平成七年分(以下「本件各年度分」という。)の所得税の修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)を提出した。
4 福知山税務署長が原告に対し、平成八年七月四日付けで本件各年度分の「所得税の加算税の賦課決定通知書」を送付したところ、原告は、平成八年八月二日、本件各年度分の所得税の修正申告により納付すべき本税に対する重加算税の合計額に相当する一四二万一〇〇〇円を納付した。
5 福知山税務署の職員が、平成八年八月二〇日、原告に対し、本件各年度分の所得税の修正申告により納付すべき税額合計一一一五万八八〇〇円が未納であることを通知したところ、原告は、同年一〇月七日、右税額を納付した。
6 原告は、福知山税務署長に対し、平成八年一〇月七日付けの「再調査の申出書」により、前記所得税の修正申告に関する事実関係の再調査と職権による更正処分を求めたが、同署長は、更正処分をしなかった。
7 原告が納付した税額(本件各年度分の所得税の修正申告による本税額、本税に対する過少申告加算税額及び重加算税額)は、次のとおりである。
(一) 本税関係
平成三年度 六三万七〇〇〇円
平成四年度 六八万七七〇〇円
平成五年度 七五万五七〇〇円
平成六年度 五二万九九〇〇円
平成七年度 七六四万二〇〇〇円
(二) 過少申告加算税関係
平成七年度 九〇万六五〇〇円
(三) 重加算税関係
平成三年度 二二万〇五〇〇円
平成四年度 二三万八〇〇〇円
平成五年度 二六万二五〇〇円
平成六年度 一八万二〇〇〇円
平成七年度 五一万八〇〇〇円
(合計 一二五七万九八〇〇円)
二 争点
本件各修正申告書による修正申告は、原告の意思によらない無効なものであるかどうか。
(原告の主張)
本件各修正申告書は、船越税理士の従業員である柳田事務員が原告に無断で提出したものであり、原告は、修正申告の対象となる所得額も、申告すべき所得税額も知らず、右各修正申告書を福知山税務署長に提出する意思もなかったものであるから、本件各修正申告書にかかる所得税の修正申告は無効である。
なお、本件各修正申告書は、柳田事務員が、平成八年六月一七日に原告に何らの説明もしないまま、原告に強い剣幕で印鑑を渡すように求めて交付を受けた印鑑(三文判)を押捺して作成したものであり、その際、柳田事務員は原告に右書面の趣旨と内容を説明しなかったし、原告において右書面が修正申告書であることの確認もできなかった。
(被告の主張)
原告は、船越税理士に対し、本件各年度分の修正申告を委任しており、柳田事務員は同税理士と原告との間の委任契約上の債務の履行補助者として原告の本件各修正申告書を提出したものであるから、本件各修正申告書にかかる所得税の修正申告は有効である。
三 争点に対する判断
1 前記争いのない事実のほか、甲一号証の一ないし五、乙一号証ないし七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、船越税理士に対し、本件各年度分の修正申告事務を含む税務申告事務(税務申告書の作成・提出等)を包括的に委任していたこと(なお、原告において、船越税理士の従業員である柳田事務員が福知山税務署との間で、本件各年度分の税額について交渉等を行うこと、右各年度分の修正申告書の作成・提出を委任していたことは原告の自認するところであり〔ただし、原告は、原告の二男である高橋保夫が、本件各修正申告書が提出された後である平成八年六月一九日に、柳田事務員に対し、原告名義の修正申告書を提出する場合には同人の了解を得るように述べたと主張している。〕、本件各年度分の修正申告事務のみは船越税理士に委任していなかったというべき特段の事情は認められない。)、柳田事務員は、原告から本件各年度の修正申告事務について委任を受け、右事務について代理権を有していた船越税理士の契約上の債務の履行補助者として本件各修正申告書を作成し、原告の捺印を求めたうえで、これを福知山税務署長に提出したこと、福知山税務署長が湾権各修正申告書に基づいて本件各年度分の所得税の修正申告による本税額、本税に対する過少申告加算税額及び重加算税額を決定したことが認められる。
2 そうすると、仮に、原告の主張するように、本件各修正申告書が、原告において修正申告の対象となる所得額も、申告すべき所得税額も知らず、右各修正申告書を福知山税務署長に提出する意思もないままに作成・提出されたものであるとしても、原告と船越税理士との間で同税理士の委任契約上の債務不履行等の問題が生ずる余地のあることは別論、本件各修正申告書による所得税の修正申告は、原告の税務申告事務について委任を受け、右事務について代理権を有していた船越税理士(履行補助者である柳田事務員)において行ったものであり、同税理士の代理行為として有効なものと認められるから、右修正申告が原告の意思に基づかない無効なものである(したがって、これに基づいてなされた課税処分も無効である)ということはできず、他に本件各修正申告書に基づく課税処分等が違法無効であると認めるに足りる証拠はない。
なお、原告は、納税者である原告が船越税理士に対し、原告において納税すべき税額を知らないで税務申告に関する事務を委任することはあり得ないとも主張するが、前記認定事実に照らし、採用することができない。
四 結論
以上の次第であり、本件各修正申告書による原告の所得税の修正申告が無効である(その効果が原告に帰属しない)ということはできないから、原告の本訴請求は、理由がないものとして、これを棄却することとする。
(口頭弁論の終結の日 平成九年六月一三日)
(裁判官 村田渉)